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判例

判例チェック No.3 東京高裁平成17年10月5日判決 請負代金請求控訴事件

カテゴリ:判例
判例チェック No.3  
東京高裁平成17年10月5日判決 請負代金請求控訴事件
 
(判例タイムズ1226号342頁)
★チェックポイント
請負契約約款中に特約がある場合,元請業者は,下請業者が民事再生手続を申し立てた後に,孫請業者に対して下請業者の請負代金債務を立替払いしたうえ,立替金請求債権を自動債権として下請業者に対する請負代金債務と相殺することが許されるか(積極)。
【参照条文】平成16年法76号による改正前の民事再生法93条4号ただし書中段
(現行民事再生法には93条の2第2項2号にほぼ同様の規定がある。)
■事案の背景
元請業者(甲)は,下請業者(乙)との間の下請負契約中の,「乙または乙の下請業者が労賃・下請負代金・材料代金等の支払を怠(った)ときは,甲は,これらを立替えて支払うことができる。」との特約,並びに「甲は,立替金……その他一切の乙に対する債権と,その弁済期が到来していると否とを問わず,乙に対する債務と対当額で相殺した上で,これを控除して支払う。」との特約に基づき,乙が民事再生手続開始の申立をした直後に孫請業者に対する乙の請負代金債務を立替払し,乙に対する請負代金債務と相殺した。
■判旨
本件立替払約款及び本件相殺約款は,社会的に見ても,相当の必要性がある合理的な契約内容である……本件立替金求償債権は……改正前民事再生法93条4号ただし書中段の「再生債権者が支払の停止等があったことを知った時より前に生じた原因に基づくとき」に該当すると認めるのが相当である。……また,……当該債権と請負代金債務との相殺は再生債務者の支払停止時の混乱に乗じて不当な利益を得(ようとするものではないから),……本件における……相殺権の行使は,権利の濫用とまでは認められない。
■コメント
下請業者が経営破綻すると,孫請業者が支払を受けられずに連鎖倒産する恐れがあり,建設業法41条2項は,下請業者が賃金の支払を遅滞した場合は,国土交通大臣又は知事は,元請業者に対し,立替払い等の適切な措置を講ずるよう勧告できる旨規定する。一方,元請業者は,孫請業者による工事の施工が中断すると,請負金の範囲内で,同一品質を保ちつつ,期限内に,契約義務を履行することが困難となり,その結果,発注者や建物購入者,利用予定者等が損害を被ることに由来するリスク等を抱えることになる。元請業者は,こうした事態を回避するため,孫請業者に対する下請業者の請負代金債務を立替払いし,第三者弁済の要件(民法474条)を満たし,立替金求償債権との相殺を可能にして,二重払いを予防する必要がある。
 判決は,本件事案にいては,約款の合理性・必要性と社会的相当性を認めているが,同時に,「本件約款の許容する立替払及び相殺の趣旨を逸脱するような相殺は,社会的相当性を欠き,権利の濫用となることがある」としたうえで,「例えば,工事が完成してもはや当該孫請業者による続行工事の必要性が残っていないような場合に,元請業者があえて孫請業者に対する立替払をして相殺を行うことは許されない」と判示しており,実務上参考になるものと思われる。
 なお,民事再生手続申立後,比較的早期に同手続開始決定が出される例が多いので,注意が必要である(開始決定後の相殺は許されない。)。
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