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判例

判例チェック No.51 東京地裁平成25年6月6日判決・売買代金返還等請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック№51 東京地裁平成25年6月6日判決・売買代金返還等請求事件
(判例時報2207号50頁)
 
チェックポイント
 1 商人間における売買契約の目的物が他人物であった場合の商法526条の適用の有無(消極)
 2 売主において権利の存否に関する錯誤があった場合も瑕疵担保責任を負うか(積極)
事案の概要
本件は,中古自動車の買取り等を業とするX会社と,ショッピングクレジット事業及びカード事業等を業とするY会社との間の本件中古自動車の売買契約について,その目的物が盗難車であり,所有権を移転できなかったとして,Xが,Yに対し,主位的に民法561条の担保責任に基づき,予備的に,売買契約の約定に基づき,売買契約の錯誤無効による不当利得返還と債務不履行に基づき売買代金相当額を含む損害金等の支払を求めた事案である。
なお,X会社は,Y会社に対し,上記売買代金を支払い,本件中古自動車の引渡しを受けた後,A主催の中古自動車オークションに本件自動車を出品し,本件中古自動車を転売したが,後日,Aから本件自動車について車台番号の改ざんのクレームが提出されているとの報告を受け,その後,本件中古自動車が盗難車であることが判明した。
判旨(一部認容)
「商法五二六条二項の「瑕疵」とは,売買の目的物自体の物の瑕疵を指すのであって,売主に所有権その他処分権限がないなどの権利の瑕疵は含まれないと解される。確かに,盗難車について本件のように車台番号の改ざんが行われている場合は,売買の目的物自体を調査することによって,車台番号の改ざん自体を発見しうる可能性はあるが,売主(被告)に,本件自動車について,所有権その他処分権限がないなどの権利の瑕疵については,一般に,目的物の調査だけでなく,過去の権利者等に対する調査等が必要となるから,商法五二六条二項の「瑕疵」に権利の瑕疵まで含むと解するのは困難である。」
「民法五六〇条は,他人の権利に属する物件の売買について,売主の知,不知を問わず,これを一律に有効とし,他人の権利を買主に移転できなかった場合等について,その責任を明らかにしているのであるから,他人物売買の買主が売主に対して,民法五六一条の責任を追及したのに対し,売主において,当該目的物が他人の権利に属することを知らなかったとして,錯誤無効の主張をし,その責任追及を免れることを許すと,民法五六一条等の定めの潜脱になり許されないと解すべきである(東京地判昭和三一年一〇月六日下民集七巻一〇号二八二八頁参照)。」
★ コメント
 1 商法561条の適用の有無
商法561条において,目的物の検査・瑕疵通知義務として,「商人間の売買において,買主は,その売買の目的物を受領したときは,遅滞なく,その物を検査しなければならない。」(1項),「前項に規定する場合において,買主は,同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは,直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ,その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において,買主が6箇月以内にその瑕疵を発見したときも,同様とする。」(2項)などと規定されている。この規定については,一般的に,商取引に関する法律関係の早期安定の要請とともに,専門的知識を有する商人に対し検査・通知義務を負わせたものであり,この趣旨から,権利の瑕疵には適用がないと解されており,本裁判例も同様の見解を採ったものである。
 2 民法560条と売主側の錯誤
   民法560条には「他人の権利を売買の目的としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」と規定されているところ,売主に錯誤があった場合に民法562条1項の損害賠償責任を免れることができるかが問題となるが,他人物売買の売主には権利供与義務があることや要素の錯誤とは言えないなどを理由にこれを否定する見解が一般的であり,本裁判例も同様の見解を採ったものと言える。
  以上
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