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判例

判例チェック No.60 横浜地裁平成26年7月11日判決・不当利得返還請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック№60 横浜地裁平成26年7月11日判決・不当利得返還請求事件
(最高裁HP)
 
チェックポイント
 中小企業としての実体のない会社が信用保証協会の保証付融資の融資金を詐取した場合における,信用保証協会の錯誤無効等の主張の可否(消極)
事案の概要
本件は,A社から委託を受け,A社のY銀行に対する貸金債務につき,Y銀行との間で保証契約を締結し,当該保証契約に基づきA社の残債務を代位弁済したX信用保証協会が,当該保証契約はAが中小企業者であること及び資金使途が事業資金であることについて錯誤があったことにより無効であるなどと主張して,不当利得返還請求権に基づき,代位弁済金4800万円超及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案であり,Y銀行は,X信用保証協会の錯誤等を否認して争った。
判旨(請求棄却〔控訴〕)
裁判所は,X信用保証協会の錯誤無効の主張につき,錯誤があったことを認めたが,以下のとおり要素の錯誤に該当しない旨判示した。
「保証契約は,主債務者が債務を履行しない場合に,保証人がその履行をする責任を負担することを内容とするものであるから,保証人は,原則として,主債務者が債務を履行しない事由を問わず,当該債務を履行する責任を負担するものである。」「したがって,本件のように,企業としての実体や資金使途を偽るなどして貸付金が詐取されたという事案についても,貸付金の詐取は,主債務者から債権を回収することができない事態の一つとして想定されており,原則としては,保証人において引き受けられたリスクであると解すべきである。」「X信用保証協会は,中小企業者に対する信用保証を専門的に取り扱っている公的機関である上,信用保証の相手方である金融機関に対する十分な交渉力を有するものであることが,Y銀行の前身である各銀行との間で同一内容の本件約定書を取り交わしていること・・・に照らして明らかであり,また,一般論として貸付金が詐取されるリスクがあることの認識も有していたはずであるから,X信用保証協会において引き受けられないリスクがある場合には,その事由を信用保証の相手方との間の契約書において定めることが可能であると認められるところ,本件約定書においては,Y銀行の義務違反や帰責事由が存在する場合に限って,信用保証協会であるX信用保証協会の保証債務の免責が認められており・・・これらがない場合にまで,Y銀行が,原告が信用保証債務を免れることを甘受していたものと解することは困難というべきである。」「このことは,Y銀行が,A社が中小企業者であること及び資金使途が事業資金であることというX信用保証協会の保証の要件ないし動機を知っていたとしても同様である。 」
「以上によれば,A社が中小企業者であること及び資金使途が事業資金であることが,本件各保証契約の内容になっていたということはできず,本件錯誤が要素の錯誤に該当すると認めることはできない。」
★ コメント
本件は,信用保証協会の保証付融資の融資金を詐取した場合において,信用保証協会が錯誤無効等の主張を行った事案であるが,近時,このような事案が増えている。その錯誤の内容としては,借主に中小企業者の実体がなかったことを主張したり(本件),借主が反社会的勢力であることを主張したり(東京高裁平成26年3月12日判決・金融法務事情1991号108頁等)することが多い。
前者については,本件と同様に要素の錯誤に該当しないとする裁判例(東京高裁平成26年1月30日判決・金融法務事情1988号109頁等)が存する一方,要素の錯誤を認めた裁判例(東京高裁平成19年12月13日判決・金融法務事情1829号46頁)も存する。ただし,錯誤無効が認められた裁判例においては,金融機関が信用保証協会との間の契約に基づいて負担する調査義務を尽くしていなかったことが認定されているか,またはそう推測させる事実が認定されている(佐久間毅「信用保証協会による保証と錯誤無効?主債務者が反社会的勢力に該当することが契約締結後に判明した場合?」金融法務事情1997号15?17頁,金融法務事情2008号86頁参照)。
なお,後者についても,下級審裁判所において判断が分かれており,現在,複数の事件が上告・上告受理申立中であり,最高裁の判断が待たれているところである(金融法務事情2008号86頁参照)。
以上
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