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判例

判例チェックNo.73 最高裁第1小法廷平成28年7月1日決定・平成28年(許)第4号ないし第20号株式取得価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

2016-07-12
カテゴリ:判例
判例チェックNo.73 
最高裁第1小法廷平成28年7月1日決定・平成28年(許)第4号ないし第20号株式取得価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 (出典 最高裁HP)
 
★チェックポイント
株式等の公開買付け後に株式会社がその株式を全部取得条項付種類株式とした上でこれを取得する取引が、一般に公正と認められる手続により行われた場合、裁判所は、当該株式の取得価格をその公開買付における買付価格と同額とするのが相当か。(積極)
 
■事案の概要
本件は、その発行株式(以下「本件株式」という。)を大阪証券取引所のJASDAQスタンダード市場に上場していた会社が、本件株式を全部取得条項付種類株式とした上でこれを取得する公開買付けをした。これについて会社法172条1項(平成26年法律第90号による改正前のもの)による取得価格決定(原々決定)がなされ、その不服申立として原決定を経て会社、株主双方から特別抗告がなされたところ、最高裁は、原々決定、原決定を破棄して自判により取得価格を後記1(2)の本件買付価格と同額と定めたのが本件である。
以下の説明では、本件特別抗告の記載に従い、会社を抗告人、株主を相手方とする。
1(1) A及びBは、合計して抗告人の総株主の議決権の70パーセント以上を直接又は間接に有していた。
(2) A及びBは、両社で抗告人の全株式を保有するなどを計画した。そして、両社及び他1社は、平成25年2月26日、買付予定数を180万1954株、買付期間を同月27日から30日営業日、買付価格を1株12万3000円(以下「本件買付価格」という。)として本件株式及び抗告人の新株予約権(以下「本件株式等」という。)の全部の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)を行う旨、また、本件株式等の全部を取得できなかったときは、抗告人において本件株式を全部取得条項付種類株式とすることを内容とする定款の変更を行うなどとして同株式の全部を本件買付価格と同額で取得する旨を公表した。
抗告人は,上記の公表に先立ち、本件公開買付けに関する意思決定過程からA及びBと関係の深い取締役を排除し、両社との関係がないか、関係の薄い取締役3人の全員一致の決議に基づき意思決定をした。また,抗告人は、法務アドバイザーに選任したC法律事務所から助言を受け、財務アドバイザーに選任したD証券株式会社から、本件株式の価値が1株につき12万3000円を下回る旨の記載のある株式価値算定書を受領するとともに、本件買い受け価格は妥当である旨の意見を得ていた。更に、抗告人は、有識者により構成される第三者委員会から、本件買付価格は妥当であると認められる上、株主等に対する情報開示の観点から特段不合理な点は認められないなどの理由により、本件買付けに対する応募を株主等に対して推奨する旨の意見を表明することは相当である旨の答申を受けて、同年2月26日、同答申のとおり本件公開買付けに対する意見を表明した。
(3) 平成25年6月28日に開催された抗告人の株主総会及び普通株式の株主による種類株主総会において、次の各決議が成立した(以下,上記各株主総会を「本件総会」という。)。
ア 残余財産の分配についての優先株式であるA種種類株式を発行することができる旨定款を変更する。
イ 抗告人の普通株式を全部取得条項付種類株式とし,抗告人がこれを取得する場合,その対価として全部取得条項付種類株式1株につきA種種類株式69万4478分の1株の割合をもって交付する旨定款を変更し,この変更の効力発生日を平成25年8月2日とする。
ウ 抗告人は,取得日を平成25年8月2日と定めて,全部取得条項付種類株式の全部を取得する。
(4) 平成25年8月2日,前記(3)イの定款変更の効力が生じ,抗告人は,同日,全部取得条項付種類株式の全部を取得した。
(5) 相手方らは,本件総会に先立ち,前記(3)の各決議に係る議案に反対する旨を抗告人に通知し,かつ,本件総会において,同議案に反対した。そして,相手方らは,会社法172条1項所定の期間内に,取得価格の決定の申立てをした。
2 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,相手方らが有していた別紙保有株式数一覧表記載の全部取得条項付種類株式の取得価格をいずれも1株につき13万0206円とすべきものとした。
本件買付価格は,基本的に株主の受ける利益が損なわれることのないように公正な手続により決定されたものであり,本件公開買付け公表時においては公正な価格であったと認められるものの,その後の各種の株価指数が上昇傾向にあったことなどからすると,取得日までの市場全体の株価の動向を考慮した補正をするなどして本件株式の取得価格を算定すべきであり,本件買付価格を本件株式の取得価格として採用することはできない。
 
■判旨
多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である。
 
★コメント
株式買取請求・取得価格決定事件における株式価値評価の問題は、これまで最高裁判例にも度々登場し、本判例中にも最高裁判所平成24年2月29日判決(民集66巻3号1784頁)、平成27年3月26日決定(民集69巻2号365頁)が引用され、また日本私法学会の2015年度大会のシンポジュウムにも取り上げられ(私法第78号57頁以下にその報告が搭載されている。)、その中で、東京大学後藤元准教授により、神戸大学の飯田秀総准教授の「組織再編であれ、公開買付けを用いた二段階型の買収であれ、手続の公正性が確保されている場合には、基本的には裁判所は何もすべきではなく、権利行使日の市場価格、若しくは現金買収の場合には公開買付け価格を以て買取価格とすればよい」との趣旨の論説が紹介されている(前掲書74頁以下)。
筆者は、飯田准教授の論説に接していないが、本判決は、飯田秀総准教授の論説に近いのではなかろうか。
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